Lahの部屋

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【化学】化学結合論の本質(part 1)

はじめに

 この記事では、化学結合がどういうものであるかを解説する。なぜ結合するのか、なぜ結合が切れるのか、というあたりに焦点を置きたい。一般に出回っている同様の記事には、正確性に欠けていたり本質的でなかったりするものがある。さらに、そうでない記事のほとんどは高度な数式を使っていて取っ付きにくい。

 そこで本記事では、科学的正確性を損なわない範囲でできるかぎり直感的に、できるだけ本質的に化学結合論を理解できるような内容を目指す。数式の使用も、概要の理解に必要な最小限度にする。

 想定する予備知識は高校物理、特に、古典物理の波の単元と電磁気学、そして原子物理のヤングの二重スリット実験を知っていることである。

 

原子内での電子の在り方

 ヤングの実験が示す通り、電子はド=ブロイ波と呼ばれる波として存在する。そんな存在である電子は、原子の中でどんな仕方で存在しているのだろうか。

 そもそも原子とは、プラスの電荷をもつ原子核が電子を拘束することで成立する構造体のことである。そこでは電子という波は定常波として存在する。つまりこんな感じ。

 波の位相が噛み合った状態で、オレンジ色の線から緑色の線までを振幅として振動している。もちろん、これはあくまでも電子の波動を古典物理学の波動で擬えたイメージである。

 

微分方程式

 先ほどは軽くイメージをお伝えした。しかし化学結合を捉えるためには、原子内の電子の在り方をもっと正確に知る必要がある。そこで、シュレディンガー方程式というものを紹介したい。数式を省くと言ったそばからこれなので、怒られても仕方がない。これは化学の根幹をなすものなので少しだけ我慢してほしい。眺める程度で構わないので。

 シュレディンガー方程式微分方程式の一種である。微分方程式がどういうものであるかは予備知識としなかったため、ここでお伝えする。微分方程式とは、関数とその導関数との関係を示す方程式である。以下は、最も単純な微分方程式のひとつだ。

\begin{align} \frac{d}{dx}f(x) &= f(x) \end{align}

 これを満たす関数 f(x)の一般式は以下である。

\begin{align} f(x) = Ce^x ~ ~ (C = const. ) \end{align}

 このように、微分方程式を満たす関数の一般式を求める作業を「微分方程式を解く」と言う。

シュレディンガー方程式

 微分方程式について述べたところで、本題であるシュレディンガー方程式の概要を説明する。原子内に存在する電子の波動はシュレディンガー方程式を満たす。したがって、シュレディンガー方程式を解くことによって、原子内における電子の波の式が分かるというわけだ。シュレディンガー方程式は以下のような形をとる(より正確には、水素様原子における時間に依存しないシュレディンガー方程式がこの形をとる。)。

\begin{align} \hat{H}\Psi(\boldsymbol{x}) = E \Psi(\boldsymbol{x}) \end{align}

 両辺を \Psi(\boldsymbol{x})で割れるじゃん?と悩んで眠れなくなる方がいるかもしれない。「演算子」という単語を調べていただければ快眠できると思う。

 ここで、 \boldsymbol{x}は3次元空間上の座標を示すベクトルである。 \Psi波動関数と呼ばれる関数で、原子内における電子の波はこの関数で表せるというものだ。 Eはエネルギーにあたるもので、ここでは単なる定数だと見てほしい。

  \hat{H}の中身を展開するとこんな感じだ。

\begin{align} \left(\frac{-\hbar^2}{2m}\nabla^2 + V(\boldsymbol{x})\right) \Psi(\boldsymbol{x}) = E \Psi(\boldsymbol{x}) \end{align}

 ここで、 V(\boldsymbol{x})はポテンシャルエネルギーと呼ばれる項だ。すなわち、これは位置 \boldsymbol{x}にある電子がもつ電磁気力による位置エネルギーを指す。要するに、原子核が電子を拘束しているまさにそのクーロン力は、この V(\boldsymbol{x})の項によって表現される。他にも色々なパーツがあるので解説したくなるが、数式のウェイトが高くなるのが怖いのであえてしない。

 

 次回はこのシュレディンガー方程式を解く…ことはしないで、その解、つまりそれを満たす波動関数を眺めることで、原子内での電子の在り方をもう少し詳しく見ていく。